公安調査官

公安調査官(こうあんちょうさかん)とは、日本公安調査庁に所属する国家公務員公安職)で、破壊活動防止法無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律に基づいて、暴力主義的破壊活動を行う危険性のある団体について情報収集(諜報諜報活動)し、調査の結果、規制の必要があると認められる場合には、団体の解散や取締り等を行うことを職務とする。

概要

法務省外局である公安調査庁(本庁)、その地方支分部局である公安調査局と公安調査事務所などに配置されている。

調査対象は、対外的には、北朝鮮中国韓国ロシア国際テロ組織など、対内的にはオウム真理教旧統一教会とその関連団体、日本共産党極左暴力集団新左翼)、右翼団体、その他の過激派諸団体である。

公安調査庁の令和三年度の定員は1,547人。国家公務員削減の流れに反し、平成16年度定員から99人増員されている。職員は、国家公務員I・II・III種試験から法務事務官として採用され、6か月(国家公務員I・II種試験)もしくは1年(III種)を経過後、公安調査官に補職される。もっとも、例年、III種からの採用は0か1名程度で、大半はⅠ、Ⅱ種職員となっている。採用自体は他省庁と変わるところはなく、官庁訪問や業務説明会も他省庁と同様に行われる。幹部以外の氏名は公表されない。

1952年7月の公安調査庁設置の際には、戦後公職追放されていた特別高等警察領事館警察外務省警察)、陸軍中野学校、旧日本軍特務機関、憲兵隊の出身者が参画したとされ、中でも特高警察と領事館警察の出身者が中堅幹部として組織運営を担っていた。領事館警察は、満州国中国大陸で特高警察としての活動を行っていたが、敗戦後もGHQによる公職追放の対象から外されていたため、内務省調査局時代から機会をみて再雇用されていた[1]。このほか、検察庁警察庁から出向者を迎えることになったが、検察庁からは戦前思想検事であった者(井本台吉など)、警察庁からは戦前に特高警察に在籍した者(柏村信雄秦野章など)が選ばれた(所謂「逆コース」の一環)。

対象となる組織などに“協力者”(エージェント)を獲得・運用して情報を収集(ヒューミント)し、分析することを主たる業務としており、公安警察とは守備範囲が重なっている[2]

司法警察権は与えられていないが、団体規制法第三十九条では公安調査官による対象団体への立入検査について、拒否した者に対して1年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金刑が規定されており、同庁の団体規制権能には一定の強制力も付与されている。

身分証票として、枠の中に五三の桐(中央省庁紋章)と「公安調査官」の文字が金色で書かれた旧形式警察手帳風の黒い手帳を交付されている。

公安調査官の職位

公安調査官には警察官のような階級はない。地方の出先機関である公安調査局と公安調査事務所の場合、局長部長課長など他官庁にも見られる役職・部署もあるが、それ以外の、いわゆる“現場”に相当する部署では専門官制(部門制)が採られている。

配属により次のような職位(役職名)が与えられる。

  • 首席調査官(課長級)
  • 統括調査官(課長補佐級)
  • 上席調査官(係長級)
  • 主任調査官(係主任級)

問題と展望

いわゆる“現場”に相当する部署に配属されている公安調査官は、諸外国に於ける諜報機関でいうところのケース・オフィサー(工作担当者の意)に該当し、活動の特殊性から、所属・職名(場合によっては名前など)を偽って様々な人物と接触したり、リクルート活動や内偵などを行うことが多いとされる。 他方、各地から寄せられる情報の集約と分析を任務とする本庁勤務の公安調査官は、諸外国における諜報機関でいうところのアナリスト(分析官)に該当する役割を果たしているものとされる。

2001年1月の中央省庁再編に伴い、各都道府県にあった公安調査事務所が14か所にまで整理・統合されたものの、最近では国家公務員削減の流れにもかかわらず増加傾向にある。また、在外公館を含めた国外にも職員を配置しているほか、国内の関係機関にも相当数の出向ポストを有しているとされる。

職員の不祥事(元職員も含む)

  • 1999年
    • 公安調査庁の職員であった野田敬生が女性に6000回もの無言電話をしたり、脅迫状を送るなどのストーカー行為を行なっていたため逮捕され、横浜地裁で懲役1年6ヶ月・執行猶予4年の判決を受けた[3]
  • 2000年
    • 本庁勤務の職員は、飲食時に身分証を紛失。上司への報告を怠る一方で、同僚に偽造を依頼。同僚が自宅でパソコンを使用し紙製、顔写真付きの偽身分証を作って手渡したが、身分証の点検などで偽造が発覚。同年八月、依頼した職員は二カ月、同僚も一カ月の減給処分を受けた[4]
    • 資料が記録されたフロッピーを盗まれた(中部公安調査局)[5]
    • 九州公安調査局管内の公安調査事務所で、秘密文書の紛失[5]。情報収集活動などで使う調査活動費の使途や領収書が紛失しているのが判明し、四国公安調査局長ら三人が注意などの処分を受けている[5]
    • 通りがかりの人で調査とはまったく無関係の人間に暴力をふるった公安調査官二人を戒告処分(東北公安調査局)[5]
  • 2003年
    • 酒に酔った公安調査官が路上で男女二人とけんかとなり、調査官の身分を示す証票を見せて「警察官だ」と嘘をつき、一カ月の減給処分を受けている(中国公安調査局)[5]
  • 2007年
    • 元公安調査庁長官の緒方重威朝鮮総連施設の強制執行を免れるために不実の登記を行なったとして逮捕された。6月28日、緒方元長官を代金を支給する意思が全くないのに売却取引を締結したとし、詐欺の疑いで逮捕[6]
  • 2012年
    • 出張旅費や調査活動費を不正に受給、国立駐在官室長を務める統括調査官らは、公用車を利用した静岡県への出張を新幹線を使ったと偽り3人分の交通費2万9460円を不正に受領するという事実上の詐欺行為[7]
  • 2013年
    • 公安調査事務所の所長(59)の指示により調査活動費名目で捻出した約24万円を所員同士の会食などに充てた。裏金作りに関与していた首席調査官(58)は、領収書を偽造(関東公安調査局)[8]
    • 公安調査庁主任調査官がひかりの輪への公安調査庁の立ち入り検査の日程を教団施設に居住していた男性信者(脱会済み)に漏洩したとして、東京地検特捜部国家公務員法守秘義務)違反罪で略式起訴された。主任調査官は「信者の信頼を得て、より重要な情報を得ようとした」と説明。主任調査官は男性信者に対し、飲食接待したり金品を提供したりしていた。主任調査官を減給100分の5(1カ月)の懲戒処分を受けた[9]

脚注

  1. ^ 荻野富士夫 『戦後治安体制の確立』 岩波書店 p.254
  2. ^ 別冊宝島 『警察組織のすべて』 P97
  3. ^ 産経新聞 1999年12月7日
  4. ^ 共同通信 2002年2月2日
  5. ^ a b c d e 共同通信 2004年12月17日
  6. ^ 中央日報 2007年6月29日
  7. ^ 時事通信 2012年9月14日
  8. ^ 読売新聞 2013年4月26日
  9. ^ 立ち入り日程を「ひかりの輪」信者に漏らす 公安調査庁職員を守秘義務違反で略式起訴 東京地検特捜部 産経新聞 2015年3月27日

関連項目

外部リンク

  • 公安調査庁
内閣情報会議
内閣官房

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国家安全保障局※ - 情報班
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関連項目:水曜会

防衛省※・自衛隊

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統合幕僚監部運用部 - 運用第1課 - カウンターインテリジェンス室
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警察庁※・都道府県警察

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警察大学校(警備専科教養講習、警備専科特別講習)
警視庁 - 公安部 - 公安総務課、公安第一課、公安第二課、公安第三課、公安第四課、外事第一課、外事第二課、外事第三課、外事第四課、公安機動捜査隊
道府県警察本部 - 警備部 - 公安課外事課
警察署 - 警備課 - 公安係、外事係
関連項目:公安警察 | 自動車ナンバー自動読取装置(Nシステム)

国土交通省

海上保安庁 - 警備救難部 - 警備情報課 - 警備情報調整官、船舶動静情報調整官

法務省

(法務省)刑事局 - 公安課 | 公安調査庁※ - 総務部 - 工作推進室 | 調査第一部 - 第一課、第二課、第三部門、第四部門、第五部門、オウム特別調査室 | 調査第二部 - 第一課 - 国際調査企画官、第二課 - 国際破壊活動対策室、第三部門、第四部門 | 公安調査庁研修所
関連項目:公安検察

外務省

(外務省)大臣官房 - 情報通信課 - 外務省船橋分室 | 総合外交政策局 - 国際安全・治安対策協力室、国際テロ情報収集ユニット
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カテゴリ Category:特別司法警察職員