針銀鉱

針銀鉱
メキシコグアナフアト、サン・フアン・デ・ラヤス鉱山産の針銀鉱
分類 硫化鉱物および硫塩鉱物
シュツルンツ分類 II/B.05
Dana Classification 02.04.01.01
結晶系 単斜晶系
対称 P21/n[1]
双晶 {111} 面に集片双晶、{101} 面に接触双晶
へき開 不明瞭
断口 粗面
モース硬度 2〜2.5
黒、灰色
透明度 不透明
密度 実測: 7.20〜7.22
計算: 7.24
プロジェクト:鉱物/Portal:地球科学
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針銀鉱(しんぎんこう)もしくはアカンサイト (: Acanthite)とは、シュツルンツ分類において「硫化鉱物および硫塩鉱物」に分類される、組成式 Ag2S の硫化銀(I)からなる比較的稀な鉱物である。

針銀鉱の結晶構造は単斜晶系で、通常は針状結晶もしくは四角形状、多くは立方体状結晶として産するが、灰色から黒色の集合鉱物(ドイツ語版)としてもみられる。

命名と歴史

ザクセン州、エルツ山地中のフライベルク産の鏃状の針銀鉱

針銀鉱はチェコヤーヒモフで初めて発見され、グスタフ・アドルフ・ケンゴット(ドイツ語版) (1818–1897) により1855年に記載された。この鉱物は特徴的な結晶形からギリシャ語で「針」や「釘」を意味する ἄκων akanta から名付けられた。

分類

旧式だが普及している、シュツルンツ分類第8版(ドイツ語版)では、針銀鉱は「硫化鉱物および硫塩鉱物」の「金属の硫黄、セレン、テルルに対する組成比が 1:1 よりも大きい硫化物」に属し、アギラライト(ドイツ語版)輝銀鉱、ベンレオナルダイト、Chenguodaite, Cervelleite, エンプレス鉱、ヘッス鉱(ドイツ語版)ナウマン鉱(ドイツ語版) 、Tsnigriite, Stützite(英語版) [訳語疑問点]などと共に「輝銀鉱・ナウマン鉱群」を形成し、番号 II/B.05 が割り当てられている。

2001年から国際鉱物学連合が採用しているシュツルンツ分類第9版(ドイツ語版)でも、針銀鉱は「硫化鉱物および硫塩鉱物」内の「金属硫化物、 M : S > 1 : 1(特に 2 : 1)」分類される。この分類項目は含有カチオン種に基いて細分化され、針銀鉱は「銅 (Cu)、銀 (Ag)、金 (Au) を含む鉱物」に属する。さらに、輝銀鉱と共に無名の 2.BA.30a 群を構成する。

ダナ分類(ドイツ語版)でも針銀鉱は「硫化鉱物および硫塩鉱物」に分類され、そこから「硫化鉱物」に細分類される。この分類体系では番号 02.04.01 「針銀鉱群」が存在し、ナウマン鉱やアギラライトと共にさらに「組成式 AmBnXp を有し (m+n):p=2:1 を満たすセレンおよびテルルを含む硫化鉱物」に細分類される。

結晶構造

針銀鉱は空間群 P21/n(14番)に属し、格子定数 a = 4.23 Å; b = 6.93 Å; c = 7.86 Å, β = 99.6° の既約単位格子あたり4組成式を含む単斜晶系の結晶構造を有する。

多形

針銀鉱は立方晶系を持つ輝銀鉱の低温における単斜晶系の多形であり、輝銀鉱を 173 °C  より下に冷やしてもこの結晶構造に変化する。しかし、外形は輝銀鉱の結晶形に保たれることが多い(仮晶)。

形成と産出地

自然が「巻き付いた」針銀鉱

針銀鉱は銀鉱脈中で水熱合成される。随伴鉱物として輝銀鉱の他に淡紅銀鉱濃紅銀鉱などがあり、また方鉛鉱中に針銀鉱が含有されることも多い。

2010年までに、およそ2100箇所で確認されている。

ドイツではバーデン=ヴュルテンベルク州シュヴァルツヴァルトバイエルン州フィヒテル山地オーバープファルツの森ヘッセン州のやオーデンヴァルトタウヌス山地ニーダーザクセン州ハルツ山地ノルトライン=ヴェストファーレン州の多くの場所、ラインラント=プファルツ州アイフェルフンスリュック山地ザクセン=アンハルト州ザールラント州ザクセン州アンナベルク(ドイツ語版)シュネーベルク(ドイツ語版)のほか様々な地域、テューリンゲン州で見られる。

オーストリアでは、ケルンテン州ニーダーエスターライヒ州ザルツブルク州シュタイアーマルク州チロル州の地域で見られる。

スイスでは、これまでにティチーノ州ミリエリア(ドイツ語版)ヴァレー州ビンタール(ドイツ語版)およびレッチェンタールでしか見付かっていない。

他にも、アルゼンチンアルメニアオーストラリアベルギーボリビアブラジルブルガリアチリ中国エクアドルエルサルバドルフランス、ジョージア、ギリシャグリーンランドホンジュラスインドネシアイランアイルランドイタリア日本カナダカザフスタンコロンビアマダガスカルモロッコメキシコモンゴルナミビアニュージーランドニカラグアノルウェーパプアニューニギアペルーポーランドポルトガルルーマニアロシアサウジアラビアスウェーデンスロバキアスロベニアスペイン南アフリカ韓国タジキスタンチェコトルコウクライナハンガリーウズベキスタン米領ヴァージン諸島イギリスアメリカ合衆国に分布する[2]

大西洋中央海嶺の岩石標本や、ルナ24号が持ち帰ったの岩石標本にも針銀鉱が見られる[2]

用途

針銀鉱は精錬の原鉱として用いられる。

関連項目

ウィキメディア・コモンズには、針銀鉱に関連するカテゴリがあります。

参考文献

  • Martin Okrusch, Siegfried Matthes (2005), Mineralogie: Eine Einführung in die spezielle Mineralogie, Petrologie und Lagerstättenkunde (ドイツ語) (7. ed.), Berlin, Heidelberg, New York: Springer Verlag, ISBN 3-540-23812-3
  • Petr Korbel, Milan Novák (2002), Mineralien Enzyklopädie (ドイツ語), Eggolsheim: Nebel Verlag GmbH, ISBN 3-89555-076-0
  • Paul Ramdohr, Hugo Strunz (1978), Klockmanns Lehrbuch der Mineralogie (ドイツ語) (16. ed.), Ferdinand Enke Verlag, p. 421, ISBN 3-432-82986-8

外部リンク

  • Mineralienatlas:Akanthit
  • Adolf Kenngott: Ueher den Akanthith, eine neue Species in dem Geschlechte der Silber- Glanze. In: Annalen der Physik und Chemie (Fünfter Band). Hrs: J. C. Poggendorff, Verlag von Johann Ambrosius Barth, Leipzig 1855, S.465 ff. (PDF 187,5 kB)
  • Handbook of Mineralogy - Acanthite (英語, PDF 62,4 kB)
  • Webmineral - Acanthite (英語)

出典

  1. ^ Hugo Strunz, Ernest H. Nickel (2001), Strunz Mineralogical Tables (ドイツ語) (9. ed.), Stuttgart: E. Schweizerbart'sche Verlagsbuchhandlung (Nägele u. Obermiller), p. 64, ISBN 3-510-65188-X
  2. ^ a b Mineralienatlas と Mindatの産出地リストによる