R4600

IDT製のR4600

R4600MIPS III命令セットアーキテクチャ (ISA) を実装したマイクロプロセッサの一種で、Quantum Effect Devices (QED) が設計した。開発コード名は "Orion"。QEDは設計専門企業で工場を持たないため、ライセンス提供を受けてR4600を実際に最初に製造したのはIDTで、その後東芝、さらに日本鋼管 (NKK) が製造した。これらの半導体企業はR4600をそれぞれ製造し販売した。R4600が対象としたのは、ローエンドのワークステーション市場とハイエンドの組み込みシステムである。例えばシリコングラフィックスが Indy ワークステーションに採用し、DeskStation Technology は Windows NT ワークステーションに採用した。R4600を採用したIndyは低価格だが整数演算性能が高かった。組み込みシステムでは、シスコシステムズがルーターなどに採用し、キヤノンがプリンターに採用した。

歴史

R4600を最初に製造したのはIDTで、1993年8月に最初の試作品が完成した。100MHz版は1993年10月に発表された。1994年3月のCeBITでIDTは133MHz版を発表。どちらも0.65μmのCMOSプロセスで製造されており、電源電圧は5Vだった。NKKは1994年中ごろにNR4600として発表。最初のNR4600は100MHzで、0.5μmプロセスで製造し、電源電圧は3.3Vだった。

解説

R4600は設計が単純化されている。1サイクルに最大1命令を整数パイプラインまたはFPUに発行する。整数演算命令の多くは1サイクルのレイテンシで実行できるが、乗算と除算はその限りではない。乗算は32ビットでも64ビットでもレイテンシが8サイクル、スループットが6サイクルである。除算は32ビットの場合レイテンシとスループットが32サイクル、64ビットの場合は61サイクルかかる。

FPUはパイプライン化されておらず、それによってチップサイズとコストを低減している。このため浮動小数点演算性能が低い。しかし、ローエンドのコンピュータや組み込み用途ではそれで十分だった。単精度および倍精度の加算はレイテンシとスループットが4サイクルである。単精度および倍精度の乗算は一部パイプライン化されており、レイテンシが8サイクルで、スループットが6サイクルとなっている。単精度の除算はレイテンシとスループットが32サイクルで、倍精度ではそれらが61サイクルとなる。平方根の計算は対応する除算より1サイクルだけ短い。

一次キャッシュは、命令とデータそれぞれが16KBで、2ウェイセットアソシアティブ方式になっている。二次キャッシュを接続可能だが、R4600本体にはそれを制御するハードウェアは備わっていないので、外部にカスタムASICまたは何らかのチップセットを必要とする。つまり、R4000SCなどとは異なり、SysADバスとCPUの間に二次キャッシュが位置する構成になる。SysADバスは64ビット幅で、最高50MHzで駆動され、帯域幅は最大で400MB/sとなる。R4600はマルチプロセッシングをサポートしていない。各種クロック信号を生成するために、3種類のクロック信号を外部から供給する必要がある。

R4650とR4640

派生品のR4650は1994年10月19日に発表された。デジタル信号処理 (DSP) 向けに固定小数点数演算用の命令が独自に追加されている。R4650の廉価版R4640は1995年11月27日に発表された。こちらは外部インタフェースが64ビットから32ビットに縮小されている。1997年9月16日、これらの150MHz版と180MHz版が登場した。1万個ロットでR4640を購入した場合、150MHz版は30ドル、180MHz版は39ドルだった。同じくR4650は60ドル(150MHz)と74ドル(180MHz)だった。R4650には133MHz版と167MHz版もある。ナムコのアーケードゲームの基板SYSTEM23でR4650が使われた。R4640はWebTVの WebTV Plus で使われた。

R4700

IDT製R4700。チップ本体のカバーを外したところ

R4600を0.5μmのCMOSプロセスに移植したのがR4700で、こちらも開発コード名は "Orion" である。100MHz、133MHz、150MHz、175MHz、200MHzの版が存在した。

参考文献

  • "IDT debuts Orion R4600". (25 October 1993). Electronic News.
  • "IDT pushes Orion MPU to 133MHz; sets 3.3V plans". (21 March 1994). Electronic News.
  • Computergram (18 November 1993). "Integrated Device Claims Its New Orion MIPS RISC Trounces Pentium When Running NT". Computer Business Review.
  • Computergram (18 January 1994). "Toshiba Samples 80486-Bus Chip Set For R-Series". Computer Business Review.
  • DeTar, Jim (31 October 1994). "IDT launches new Orion MPU spins". Electronic News.
  • Gwennap, Linley (22 January 1996). "R5000 Improves FP for MIPS Midrange". Microprocessor Report.

関連文献

  • "IDT Spins R4600 for Consumer Market". (14 November 1994). Microprocessor Report.
  • Gwennap, Linley (18 November 1992). "New MIPS Chip Targets Windows NT Boxes". Microprocessor Report.
  • Halfhill, Tom R. (December 1993). "New RISC Chips for Windows NT". Byte Magazine.
MIPSマイクロプロセッサ
全般
プロセッサー
MIPS64
適合
    • デスクトップ/産業機器
      • LS3A1000/LS3A1000-I(LS3A1000-i)
      • LS3A2000/LS3A1500-I
      • LS3A3000/LS3A3000-I(LS3A3000-i)
      • LS3A4000/LS3A4000-I(LS3A4000-i)
    • サーバ
      • LS3B1000
      • LS3B1500
      • LS3B2000
      • LS3B3000
      • LS3B4000
応用
プロセッサー
MIPS32
適合
  • Ingenic XBurst
    • JZ4720
      • Ben NanoNote
    • JZ4730 (Skytone Alpha-400)
    • JZ4740 (Dingoo A320)
    • JZ4750 (Game Gadget)
    • JZ4760
      • Velocity Micro T103 Cruz
      • Velocity Micro T301 Cruz
    • JZ4770
      • Ainol Novo7 Paladin
      • NEOGEO-X
      • GCW-Zero
    • JZ4780
MIPS64
適合
マイクロコントローラ
(組み込み機器)
M4K
  • Microchip Technology PIC32MX
4Kc/4KEc
  • ATI/AMD/Broadcom Xilleon
MIPS32
適合
ネットワーキング
4Kc/4KEc
5Kc
24Kc/24KEc
  • Qualcomm Atheros
    • AR7240
    • AR7161
    • AR9132
    • AR9331
  • MediaTek
    • RT3050
    • RT3052
    • RT3350
    • RT5350
    • RT6856
    • MT7620
  • Lantiq
    • DANUBE
    • VINAX
34Kc
  • Lantiq
    • AR188
    • VRX288
    • GRX388
  • Ikanos
    • Fusiv Vx175/173
    • Fusiv Vx180
    • Fusiv Vx185/183
74Kc
  • Qualcomm Atheros
    • AR9344
    • QCA9558
  • MediaTek
    • RT3662
    • RT3883
  • Broadcom
    • BCM4706
1004Kc
1074Kc
MIPS32
適合
  • Broadcom
    • various
  • Cavium(英語版)
    • various
  • Alchemy Semiconductor
    • Alchemy(英語版)
  • RMI Corporation
    • XLR
MIPS64
適合
  • Broadcom
    • various
  • Cavium(英語版)
    • Octeon
ゲーミング
various
スーパーコンピュータ
航空宇宙
MIPS64
適合
MIPS32
適合
クラシック
プロセッサー
MIPS I
MIPS II
MIPS III
MIPS IV
MIPS V
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